【派遣会社向け】派遣社員の能力不足を理由に「派遣社員をやめさせたい」と派遣先から言われた場合の対処法とは?

派遣社員の能力不足や派遣先従業員とのトラブルなどが理由で、派遣先企業から派遣社員の交代や派遣契約の中途解約を求められるケースがあります。

派遣会社にとっては顧客である派遣先企業の要望を可能な限り尊重したいところですが、その一方で、自社で雇用する派遣社員の雇用を守る必要もあるため、厳しい対応を迫られることになります。

この記事では、派遣会社が派遣先企業から派遣社員の能力不足などを理由に派遣契約の中途解約を求められた場合の対応について、人材サービス会社の法務部での勤務経験がある弁護士が解説します。

派遣契約の中途解約にお悩みがある場合、まずは詳しい弁護士への相談をおすすめします。

1. 労働者派遣契約の中途解約は可能ですか?

派遣社員を雇用しているのは派遣会社です。派遣先企業が派遣社員を文字どおり「やめさせる」ことはできません。

この場合、派遣先企業は、派遣会社に対して、派遣社員の交代や労働者派遣契約の中途解約を求めることになります。

労働者派遣契約の中途解約とは、通常、契約に定められた派遣期間が終了する前に労働者派遣契約を解除(解約)することをいいます。

大きく分けると、以下の場合があります。

  1. 派遣会社と派遣先企業との合意により解約する場合(合意解約)
  2. 労働者派遣契約に定められた中途解約権に基づき解約(解除)する場合

労働者派遣契約が期間途中で終了する場合として、上記以外にも、契約や法律の定めによる解除を行う場合があります。

もっとも、この場合は一定の要件をみたす必要があり、タイトルのように派遣社員の能力不足が問題となった場合では、解除がそう簡単に認められるものではありません。

そこで、今回は①②の中途解約の場面を想定した解説をします。

派遣社員の交代や中途解約に関しては、下記のコラムでも取り扱っていますので是非ご覧ください。

1.1 派遣先が会社都合で労働者派遣契約を中途解約する場合

労働者派遣法29条の2には、以下の定めがあります。

(労働者派遣契約の解除に当たって講ずべき措置)
第二十九条の二 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。

これを受けて厚生労働省が定めた派遣先が講ずべき措置に関する指針(第2の6(2)~(4))では、以下の定めがあります。

(2) 労働者派遣契約の解除の事前の申入れ
派遣先は、専ら派遣先に起因する事由により、労働者派遣契約の契約期間が満了する前の解除を行おうとする場合には、派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと。

(3) 派遣先における就業機会の確保
派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。

(4) 損害賠償等に係る適切な措置
派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い当該派遣元事業主が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならないこと。

例えば、当該派遣元事業主が当該派遣労働者を休業させる場合は休業手当に相当する額以上の額について、当該派遣元事業主がやむを得ない事由により当該派遣労働者を解雇する場合は、派遣先による解除の申入れが相当の猶予期間をもって行われなかったことにより当該派遣元事業主が解雇の予告をしないときは30日分以上、当該予告をした日から解雇の日までの期間が30日に満たないときは当該解雇の日の30日前の日から当該予告の日までの日数分以上の賃金に相当する額以上の額について、損害の賠償を行わなければならないこと。

その他派遣先は派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずること。

また、派遣元事業主及び派遣先の双方の責に帰すべき事由がある場合には、派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮すること。

誰に「責めに帰すべき事由」があるかが重要なポイントです。

以下でそれぞれ場合を分けてみていきます。

1.1.1 「専ら派遣先に起因する事由」による場合

派遣先企業の都合で中途解約をする場合の中でも「専ら派遣先に起因する事由」による場合は「派遣元事業主の合意を得ること」と「あらかじめ相当の猶予期間をもった解除の申し入れ」の両方が必要です(上記派遣先指針第2の6(2))。

1.1.2 「派遣先の責に帰すべき事由」による場合

次に「専ら」派遣先企業に起因する事由がなくとも「派遣先の責に帰すべき事由」による場合には「新たな就業機会の確保を図ること」が必要です。

それができないときには「派遣元事業主が派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償」が必要です(上記派遣先指針第2の6(4))。

この場合は、さらに「派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずること」も求められます。

さらに「派遣元事業主及び派遣先の双方の責に帰すべき事由がある場合」は「派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮すること」とされています(上記派遣先指針第2の6(4))。

1.1.3 「派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由」による場合

派遣先企業は自らの帰責性の有無にかかわらず「派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合」には「当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること」が必要となります。

なお、派遣先企業は「労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行う場合」であって「派遣元事業主から請求があったとき」は「労働者派遣契約の解除を行った理由を当該派遣元事業主に対し明らかにすること」も求められます(上記派遣先指針第2の6(5))。

1.2 派遣元の会社都合で労働契約を中途解約する場合

派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針第2の2(3)(4)では、以下の定めがあります。

(3) 労働者派遣契約の解除に当たって講ずべき措置
派遣元事業主は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該労働者派遣契約に係る派遣先と連携して、当該派遣先からその関連会社での就業のあっせんを受けること、当該派遣元事業主において他の派遣先を確保すること等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。

また、当該派遣元事業主は、当該労働者派遣契約の解除に当たって、新たな就業機会の確保ができない場合は、まず休業等を行い、当該派遣労働者の雇用の維持を図るようにするとともに、休業手当の支払等の労働基準法(昭和22年法律第49号)等に基づく責任を果たすこと。

さらに、やむを得ない事由によりこれができない場合において、当該派遣労働者を解雇しようとするときであっても、労働契約法(平成19年法律第128号)の規定を遵守することはもとより、当該派遣労働者に対する解雇予告、解雇予告手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすこと。

(4) 労働者派遣契約の終了に当たって講ずべき事項
イ 派遣元事業主は、無期雇用派遣労働者(労働者派遣法第30条の2第1項に規定する無期雇用派遣労働者をいう。以下同じ。)の雇用の安定に留意し、労働者派遣が終了した場合において、当該労働者派遣の終了のみを理由として当該労働者派遣に係る無期雇用派遣労働者を解雇してはならないこと。

ロ 派遣元事業主は、有期雇用派遣労働者(労働者派遣法第30条第1項に規定する有期雇用派遣労働者をいう。以下同じ。)の雇用の安定に留意し、労働者派遣が終了した場合であって、当該労働者派遣に係る有期雇用派遣労働者との労働契約が継続しているときは、当該労働者派遣の終了のみを理由として当該有期雇用派遣労働者を解雇してはならないこと。

以上のとおり、派遣会社は、労働者派遣契約の終了のみを理由として派遣社員を解雇できません。

また「派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること」や「新たな就業機会の確保ができない場合は、まず休業等を行い、当該派遣労働者の雇用の維持を図るようにするとともに、休業手当の支払等の労働基準法(昭和22年法律第49号)等に基づく責任を果たすこと」が求められます。

さらに「やむを得ない事由によりこれができない場合において、当該派遣労働者を解雇しようとするときであっても、労働契約法(平成19年法律第128号)の規定を遵守することはもとより、当該派遣労働者に対する解雇予告、解雇予告手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすこと」が必要になります。

1.3 派遣社員の自己都合により中途解約する場合

派遣社員の自己都合による場合は通常あまりトラブルにならないと思いますが、上記派遣先指針上の文面上は、派遣先に帰責性がある場合なら上記派遣先指針(4)の措置が求められるように読めます。注意が必要です。

2.派遣社員の解雇は可能ですか?

派遣先企業は派遣社員の雇い主ではないので、解雇ができません。派遣社員の解雇は、派遣会社が検討することになります。

派遣社員も派遣会社の他の労働者と同様、労働関係法令の解雇に関するルールに従うことになります。

そのため、以下のルールとなります。

  • 契約期間の定めのない派遣社員の解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効」となります(労働契約法16条)。
  • 契約期間の定めのある派遣社員の解雇は「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」ことになります(労働契約法17条1項)。また「その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」ことにも注意が必要です(同17条2項)。
  • 解雇予告や業務上の傷病による休業期間の解雇制限など、その他の解雇に関するルールも基本的に同様です。

したがって、具体的な事情にもよりますが、派遣先が派遣社員の能力不足を指摘しているとしても、解雇は容易ではありません。

2.1 派遣社員の解雇を検討する際の注意点

派遣会社は、労働者派遣契約の終了のみを理由として派遣社員を解雇することはできません。

自社の通常の社員の解雇をする場合と同様、解雇はハードルが高いことが通常であるため、慎重に検討する必要があります。

では、派遣会社に登録し、派遣のつど、派遣期間だけの労働契約によって雇用される「登録型」の派遣社員でも、労働者派遣契約を中途解約したことを理由に派遣社員を解雇することは一切できないのでしょうか。

2.1.1 参考となる裁判例

派遣先企業が労働者派遣契約を中途解約したことにより、派遣会社が就業先のない派遣社員を解雇した裁判事例があります(平成22年11月5日津地方裁判所判決)。

ちょうどリーマン・ショックの頃の話であり、派遣先企業が中途解約を行ったのは、業務縮小に伴う人員過剰が理由でした。派遣会社は他にも複数の派遣先企業から派遣契約の解除の話があったことから、次の就業先のない派遣社員(登録型)を解雇してしまい、その有効性が問題になりました。

裁判所は、事業者間の派遣契約と、派遣社員と派遣会社間の労働契約は別の契約であり、派遣契約の終了だけで解雇が当然に認められるものではないとしました。

労働契約期間中の派遣社員の解雇には「やむを得ない事由」が必要であるとし、いわゆる整理解雇の要件に基づき解雇を無効と判断しています。

他にも、派遣契約期間途中での終了を理由に行われた労働契約期間途中での派遣社員の解雇を無効とした裁判例があります(平成21年4月28日宇都宮地方裁判所栃木支部決定)。

この裁判例では、上記派遣元指針に触れ、派遣会社は十分な対応をしていないと判断されています。

2.1.2 裁判例を踏まえての注意点

「登録型」の派遣社員でも、契約期間の定めがあることから、解雇には「やむを得ない事由(労働契約法17条)が必要です。

これは非常にハードルが高い要件です。派遣元指針の存在も踏まえると、派遣会社が派遣社員の就業機会の確保のための十分な努力を行い、かつ休業等で対応できないほど経営状況が逼迫した状況にあることが求められる可能性が高いです。

解雇のハードルが高いことから、派遣会社は、まずは新たな就業先の確保に努め、就業先を確保できない場合は残る契約期間中の休業を検討することになります。その後、雇用期間が満了するタイミングでの雇止めを検討することになります。

なお、契約期間の定めのない派遣社員の場合であっても、派遣先の解散に伴い、派遣会社が就業先のない派遣社員を解雇する場合には、上記裁判例同様、整理解雇の法理が適用されると判断した裁判例があります(平成22年12月15日東京高等裁判所判決等)

2.2 派遣社員の解雇に関して派遣先に責任が認められる場合

派遣社員の解雇に関して責任を問われるのは、必ずしも雇い主である派遣会社だけではありません。派遣先企業が派遣会社との労働者派遣契約を解除した結果、派遣社員が派遣会社から解雇された事案において、派遣先企業の責任が問題になった裁判例があります(平成25年1月25日名古屋高等裁判所判決)。

この裁判では、派遣先企業は派遣社員との関係で、その雇用の維持又は安定に対する合理的な期待をいたずらに損なうことがないよう一定の配慮をすべきことが求められていると判断しました。

そのうえで、裁判の事案の下では、派遣先企業による契約期間途中での労働者派遣契約の解除が信義則上の配慮義務に違反して不法行為となるとし、派遣先企業の責任を認めています。

派遣会社は、派遣先企業が強く中途解約を求めるとしても、その理由をきちんと確認することが必要です。そのうえで、派遣先企業の希望どおりに中途解約を認めることが困難な場合は、上記裁判例の事案や派遣先指針なども踏まえ、派遣先に対する配慮を求めなければなりません。

3. まとめ:派遣契約の中途解約に関するご相談はよつば総合法律事務所へ

労働者派遣契約の中途解約の場面では、派遣会社として派遣先企業への対応をするだけではなく、自ら雇用する派遣社員へ十分配慮した対応をすることが求められます。

対応の難易度が高く、自社社員だけで対応するのは大変な負担になります。また、法律のルールなどを派遣先企業に説明する必要もあります。

これらのサポートを弁護士に依頼することで、派遣会社の社員も安心安全に業務を行うことができます。

適切な対応を取ることでトラブルも防止でき、結果として、派遣先企業からも派遣社員から選ばれる、働きやすい派遣会社に近づくことも期待できるのではないでしょうか。

よつば総合法律事務所には、人材サービス会社の法務部での業務経験がある弁護士が在籍しています。多くの人材サービス会社の法律問題もお取り扱いしています。

派遣契約の中途解約への対応で悩んだときは、まずはよつば総合法律事務所にお問い合わせ下さい。

関連記事

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。