【派遣会社向け】派遣社員がパワハラを受けた場合の対応方法とは?派遣会社が知るべきポイント

派遣先でパワハラの被害にあったとして、派遣社員が派遣会社に相談するケースは珍しくありません。派遣会社としては自社で雇用する大切な派遣社員のために尽力する必要があります。

しかし、派遣先企業で起きた事件について、派遣会社が自社だけで調査や対応をするには限界があります。また、現実的な問題として、派遣会社にとって派遣先企業は顧客ですので、派遣会社の立場が必ずしも強いわけではありません。

自社で発生したパワハラ被害申告への対応と、派遣先で発生したパワハラ被害申告への対応では、大きな違いがあります。派遣先で発生したパワハラ被害申告への対応は難易度が高いといえるでしょう。

この記事では、派遣会社が派遣社員から派遣先でのパワハラ被害の申告を受けた場合の対応について、人材サービス会社の法務部での勤務経験がある弁護士が解説します。

派遣社員のハラスメント被害対応でお悩みがある場合、まずは詳しい弁護士への相談をおすすめします。

1. 派遣社員に対するパワハラの基礎知識

「派遣社員から派遣先でのパワハラ被害を申告されたが、そもそも何がパワハラに該当するのかよくわからない」

「派遣先からはパワハラの事実を否定されて、被害を訴える派遣社員との間で板挟みになっている」

「派遣先が変わるたびにパワハラの申告をしてくる派遣社員がいる」

人材派遣においては、派遣先でのパワハラ被害にあったとして、派遣社員から相談されるケースがあります。

派遣会社としては大切な派遣社員をパワハラ被害から守る必要があります。

他方で、派遣会社にとって派遣先は顧客であり、派遣先の協力なく、派遣会社のみで調査や対応をすることは困難です。

1.1 パワハラの定義と具体例

パワハラとは、一般的に

  1. 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

とされています(労働施策総合推進法30条の2第1項参照)。

厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針」による解説は次の通りです。

1.1.1 ① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係を背景とした言動」とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指し、たとえば、以下のものが含まれるとされています。

  • 職務上の地位が上位の者による言動
  • 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
  • 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

1.1.2 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、たとえば、以下のものが含まれるとされています。

  • 業務上明らかに必要性のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

1.1.3 ③ 労働者の就業環境が害されるもの

「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すものとされます。

判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされています。

1.2 派遣先企業と派遣元企業の責任範囲

人材派遣では、派遣元企業のみならず、派遣先企業もその雇用する労働者と同様に、派遣社員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。(労働者派遣法第47条の4労働施策総合推進法30条の2第1項) 同様に派遣元企業のみならず、派遣先企業もその雇用する労働者と同様に、派遣社員が職場におけるパワーハラスメントの相談を行ったことなどを理由として、当該派遣社員に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣社員に対する不利益な取扱いをしてはいけません。(労働施策総合推進法30条の2第2項同30条の5第2項同30条の6第2項

1.3 派遣社員が受けやすいパワハラの特徴

契約形態にもよりますが、派遣社員は、派遣先企業に長期間在籍することが想定されないケースが多いです。

そのため、派遣先企業の社員と比較して、社内の情報へアクセスしづらく、人間関係も派遣先企業の社員間のものと比べて希薄化しやすい傾向にあります。

そのため、派遣先企業での上司や指揮命令者、同僚との関係で人間関係のトラブルに起因したパワーハラスメントが発生する可能性があります。

たとえば、アークレイファクトリー事件(大阪高等裁判所平成25年10月9日判決)では、派遣社員が派遣先企業の従業員達からパワハラに該当する行為を受けたとして、派遣先従業員達の発言・対応が問題になりました。

裁判所は、派遣社員が契約上弱い立場に置かれていることについても触れたうえで、派遣先企業の従業員達の発言について、極端な言辞をもってする指導や対応が繰り返されており、全体としてみれば、違法性を有するに至っていると判断しています。

2. 派遣社員がパワハラを受けた際の派遣会社のリスク

2.1 派遣社員からの信頼低下による離職リスク

離職理由の約1割がハラスメントによるものというデータもあります。

特に派遣社員の場合、登録型派遣社員として他の派遣会社への登録変更が可能であり、自社社員よりも離職に至る確率が高い可能性があります。

昨今の人手不足は、人材派遣業界も同様です。苦労して派遣社員から自社を選んでもらったにもかかわらず、派遣先のハラスメントが原因で派遣会社に失望して離職されてしまうことは避けなければなりません。

2.2 派遣社員との紛争

派遣社員のパワハラ被害に対して適切に対応できなかった場合、対応の不備を理由に派遣社員から法的責任を追及される可能性があります。

この場合、派遣先も巻き込んだ紛争になる可能性が高いため、派遣社員だけではなく、派遣先企業からの信用も失うことになりかねません。

たとえば、東レエンタープライズ事件(大阪高等裁判所平成25年12月20日判決)も派遣先でのセクハラ被害について、派遣先企業と派遣会社の責任が問題になったケースです。

裁判所は、派遣会社について、派遣先企業がセクハラの予防や発生時の適切な対応を行う義務を遵守し、適正な派遣就業が行われるよう、派遣先企業との連絡体制の確立、関係法令の関係者への周知等の適切な配慮をすべき義務があるとしています。

続いて裁判所は、派遣会社が派遣社員からセクハラ被害の申告を受けた場合、派遣会社の立場で事実関係を迅速かつ正確に調査し、派遣先企業に働きかけるなどして被害回復、再発防止のため、誠実かつ適正に対処する義務があるとしています。

結論としては、派遣会社が適切な対応を取らなかったものとして、その責任を認めています。

2.3 派遣元企業としての社会的信用の低下

信頼低下は、ハラスメント被害にあった派遣社員や派遣先企業から向けられるものに限られません。

昨今は、派遣会社を探している求職者がインターネット上で各派遣会社の評判に触れることも容易です。

自分が登録した派遣会社の評判をネット上に投稿することのハードルも年々低くなっている印象を受けます。

また、ハラスメントの問題が紛争化し、訴訟などに至った場合、悪い意味で世間の注目を集める可能性もあります。

インターネットなどで派遣会社の悪い評判を目にした求職者や派遣先(顧客)企業がどのような行動をとるのかは明らかでしょう。

ひとたび対応を誤れば、それが拡散して事業全体に重大な影響を与える可能性もあるのです。

3. 派遣社員からパワハラの相談を受けた場合の初期対応

3.1 派遣社員の状況を丁寧にヒアリング

まずは派遣社員から状況を丁寧にヒアリングする必要があります。

ハラスメント被害に関するヒアリングをするうえで注意すべき点は様々ですが、主な例は次のとおりです。

  1. できる限り早く話を聞く。(ただし体調にも配慮する。)
  2. 先入観で決めつけない。
  3. 被害の裏付けとなる資料や証拠は早期に提出してもらう。
  4. 抽象的な意見や主張ではなく、5W1Hに応じて具体的な事実(日時、場所、状況、発言内容など)を詳細に聴取する。
  5. 調査に関する意向を含め、派遣社員側の意向を確認する。

3.1.1 ① できる限り早く話を聞く

被害申告を受けた場合、体調に配慮しつつ、できる限り早くヒアリングを実施しましょう。時間が空くと派遣社員側に「放置された」という印象を抱かれかねません。

また、現在進行形で被害が出ている場合、派遣社員自身や他の派遣社員へ被害が拡大するおそれがあります。

3.1.2 ② 先入観で決めつけない

先入観で決めつけないことも重要です。

被害申告が多い派遣社員からの申告の場合、派遣会社側が先入観を持ってしまうケースを見かけることがあります。あくまでも申告ごとに公正・中立な観点で話を聞かなければなりません。

3.1.3 ③ 被害の裏付けとなる資料や証拠は早期に提出してもらう

話を聞く中で、加害者とされる人とのメールやチャット、会話の録音などの客観的な資料の存在が明らかになることがあります。

これらの有無、内容によってその後の調査の進め方に重大な影響があります。できる限り早期に提出してもらいましょう。

3.1.4 ④ 抽象的な意見や主張ではなく、5W1Hに応じて具体的な事実を詳細に聴取する

被害申告の内容には、通常、被害の具体的な事実だけではなく、抽象的な意見や主張、本人なりの評価などが混ざりこんでいます。

具体的な事実だけを伝えたり確認したりというという作業は、慣れていないと非常に難しいものです。

ただ話を聞いているだけだと、時系列や場所、具体的な発言内容などが曖昧になってしまうこともあります。

傾聴の姿勢で話を聞くことも重要ですが、調査の観点では5W1Hに応じて具体的な事実を確認することを忘れてはいけません。

3.1.5 ⑤ 調査に関する意向を含め、派遣社員側の意向を確認する

被害者の意向の確認も非常に重要です。たとえば、第三者や加害者への調査方法や、自らの名前を出してよいかなど、被害者側にも意向があるのが通常です。

調査に重大な影響を与える事項であり、後々トラブルにもなりやすいため、事前に意向を確認する必要があります。

中には実現が難しい意向や、調査に悪影響が出るような意向が出される場合もありますが、そのような場合は意向を変更してもらえないか丁寧に説明して説得することが必要になります。

3.2 パワハラ事実の確認と記録の徹底

被害申告には、抽象的な意見や主張、本人なりの評価などが混ざりこんでしまうのが通常ですので、それらに惑わされず、具体的な事実関係を確認することが極めて重要です。

たとえば、「上司Aさんが同僚の前で私にいやがらせをした」と被害申告を受けた場合を考えてみましょう。

この被害申告では、少なくとも次の点がわかりません。いずれも重要な点ですので確認が必要です。

  • いつ、どこでの出来事なのか?
  • 同僚は具体的に誰なのか、どこにいたのか?
  • 上司Aの具体的な言動はどのようなものだったのか?その言動はどれくらいの時間続いたのか?どの程度の声量だったのか?

「事実を確認する」ということは意識づけや訓練が必要です。被害申告者だけではなく、ヒアリングをする会社担当者側でも対応が不十分になっているケースがあります。

またヒアリングの結果を適切に記録化することも非常に重要です。「言った、言わない」を避けるために、ヒアリング記録への対象者の署名や録音も検討する必要があります。

3.3 派遣先企業の調査協力

自社に所属する派遣社員同士でのトラブルなどの例外的な場合を除き、派遣社員側からの被害申告では、派遣先就業中の派遣先従業員による加害行為の申告がなされる場合が多くなります。

派遣会社にとっては、自社内のことではないため、自社だけで調査を完結することができません。調査を行う上では派遣先の調査協力が必要になります。

なお、適切なハラスメント対応や個人情報保護の観点から「派遣先にどこまで伝えるのか(例:自身の名前は出すことに同意しているのか)」「どこまでの調査を求めるのか」などについて、派遣社員の意向確認や同意の取得が必要なことを忘れないようにしてください。

4. パワハラを受けた派遣社員への適切なフォロー方法

4.1 安全な労働環境の確保

雇用主である派遣会社は、派遣社員の心身の健康、安全にも配慮する必要があります。

これらの配慮は、調査や派遣先との調整と並行して行う必要がある場合や、調査結果がまだ確定していない段階での実施検討が必要な場合も珍しくありません。

緊急性が高い場合には、調査未了の段階でも、暫定的に派遣社員の労働環境の変更を検討せざるを得ないケースもあります。

もっとも、被害申告をしたことが原因で不利益な取り扱いをされたと派遣社員側から誤解されるリスクがありますので、十分注意する必要があります。

4.2 派遣社員への二次被害の防止

ハラスメント被害申告に対して、適切な対応を取らないことによる二次被害を避けなければなりません。

二次被害が問題になるケースとして、たとえば、次のケースがあります。

  • 被害申告に対して取り合わなかったり、適切な対応を取らなかったりして放置する。
  • 「被害者側に落ち度がある」「受け止め方の問題である」などと非難する。
  • 適切な調査等を経ることもなく、加害者とされる側を一方的に擁護する。

このような事態に陥る原因としては、ヒアリング時の注意事項が守られていないことが多いです。

4.3 派遣社員の要望を考慮した解決策の検討や提案

ハラスメント被害申告に対して適切に対応した後、その調査結果や派遣先との協議結果を踏まえて最終的な解決策を検討、提案することになります。

その前提として、被害申告をした派遣社員側の意向も十分確認する必要があります。必ずしも意向に添えない場合もありますが、その場合も一方的に会社の見解を伝えて終わりではいけません。

派遣社員側にも寄り添う気持ちを持ちましょう。また、可能な限り、どうして派遣会社がそのような解決策を提案するのか、説明を尽くす姿勢が重要です。

5. 派遣元企業が取るべき具体的な対応策

5.1 派遣先企業との調整と問題解決の協議

ハラスメントの被害申告内容や派遣先での調査結果を踏まえて、派遣会社と派遣先企業で具体的な対応策を検討する必要があります。

派遣先企業も派遣社員の被害申告に対して適切に対応する義務があります。あまり協力的でない派遣先企業に対しては、丁寧にその旨を説明するというのもひとつの解決策です。

なお、前提として両社間で情報を共有することもありますが、被害申告をした派遣社員や派遣先従業員に関する情報には、個人情報保護法の適用があります。

うっかり個人情報に関する各種ルールに違反しないよう、情報の共有には注意が必要です。

5.2 再発防止策に関する派遣先との協議

派遣先企業も派遣社員からの被害申告に対して適切に対応するために必要な体制の整備などを講じなければなりません。

派遣会社にとって派遣先企業は顧客ですので、立場上の問題ありますが、実際に発生したハラスメントへの対応ではなく、必要に応じて再発防止策の協議が必要な場合もあります。

5.3 社内教育

派遣会社として派遣社員からのハラスメント申告に適切に対応するためには、普段派遣社員と接する自社社員や相談窓口業務を担当する自社社員への適切な教育が重要です。

ハラスメントに関するヒアリングや対応については、注意すべき点も多く、適切な対応を行うための難易度も高いといえます。マニュアルの充実や社内研修の実施など、十分な教育研修体制を構築する必要があります。

6. まとめ:派遣先でのハラスメント被害申告対応に関する相談は、よつば総合法律事務所へ

派遣先でのハラスメント被害申告への対応は、最初から最後まで非常に難易度が高いです。

自社社員だけで対応するのは大変な負担になりますが、サポートを弁護士に依頼することで、自社社員も安心安全に業務を行うことができます。

また、適切な対応を取ることでトラブルも防止できる可能性が上がり、結果として、派遣社員から選ばれる、働きやすい派遣会社に近づくことも期待できるのではないでしょうか。

よつば総合法律事務所には、人材サービス会社の法務部での業務経験がある弁護士が在籍しています。多くの人材サービス会社の法律問題もお取り扱いしています。

派遣先でのハラスメント申告対応に悩んだときは、まずはよつば総合法律事務所にお問い合わせ下さい。

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