人材派遣では、派遣元企業、派遣先企業、派遣労働者の三者の関係が問題になります。
派遣先企業は、派遣元企業に派遣料金を支払い、人材派遣サービスの提供を受ける立場です。つまり、派遣元企業にとって派遣先企業は顧客です。
派遣元企業は、顧客である派遣先企業の要望も踏まえつつ、適切に人材派遣を行う必要があります。
派遣元企業が派遣先企業との法律関係を十分に理解していないと、トラブルが発生するおそれがあります。
また、派遣先企業の要望を聞いていたら知らないうちに違法行為をしていた、なんてことにもなりかねません。
この記事では、派遣元企業が理解すべき派遣先企業との法律関係や両社の法的責任のポイントについて、人材サービス会社の法務部での勤務経験がある弁護士が解説します。
人材派遣業における派遣先企業との関係にお悩みがある場合、まずは詳しい弁護士への相談をおすすめします。
目次
1. 派遣元と派遣先の基本的な法律関係とは
1.1 労働者派遣法のルールの理解が重要
「なんとなく日々の業務をこなしており、法律のルールを意識したことがない」
「派遣先企業の要望にそのまま応えてしまうと違法な気がするが、法律がよくわからず断ることができない」
人材派遣は、労働者派遣法のルールの下で行われるビジネスです。そのため、法律の基本的なルールを理解して行う必要があります。
法律への理解をおろそかにしていると、知らない間に違法行為をしてしまうおそれがあります。
1.2 労働者派遣契約の概要と目的
「労働者派遣契約」は、派遣先での労働力の確保を主な目的として、派遣元と派遣先の企業間で締結される契約です。
シンプルにいえば、派遣元企業が雇用した派遣労働者を派遣先企業で労働させることが主な契約内容になります。
1.3 派遣労働者への指揮命令権は誰が持つのか?
労働者派遣は、派遣労働者を派遣先企業で労働させるものですので、具体的な業務に関する指揮命令は、派遣先が行います。
「雇用主ではない第三者のために労働する」という点では少し請負契約と似ていますが、両社は厳格に区別されます。 派遣先から労働者に直接指揮命令が行われるのが「労働者派遣」であり、通常の雇用の場合と同様に雇用主が労働者に直接指揮命令するのが「請負」です。
契約書の名称が形式上「業務委託契約」となっていても、その実態が顧客から労働者に直接指揮命令が行われる「労働者派遣」の場合は、「請負」を装った「労働者派遣」であるとして、いわゆる「偽装請負」の問題になります。
1.4 派遣元・派遣先の役割と責任範囲
派遣元は、自ら派遣労働者を雇用しています。そのため、派遣元は、通常の雇用主と同様、派遣労働者の雇用主として、労働契約の締結、賃金の支払い、時間外労働に必要な三六協定の締結・届出、労災補償等の責任を負担します。
一方、派遣先は、自らの業務に派遣労働者を従事させ、直接派遣労働者へ指揮命令をします。
そのため、指揮命令に伴う責任として、派遣労働者に対する危険や健康障害防止措置、労働時間管理等の責任を負担することになります。
引用元:労働者派遣事業関係業務取扱要領318頁(厚生労働省)
2. 派遣元に発生する主な法的責任
2.1 労働者派遣法に基づく遵守事項
労働者派遣法上、派遣元が守るべきルールは多岐にわたります。
例として「労働者派遣事業関係業務取扱要領」に「派遣元事業主の講ずべき措置等」として記載されたものを一部抜粋します。
- 特定有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置
- 派遣労働者に対するキャリアアップ措置
- 派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保のための措置等(いわゆる「同一労働同一賃金」対応)
- 派遣労働者等の福祉の増進
- 適正な派遣就業の確保
- 待遇に関する事項等の説明
- 派遣労働者であることの明示等
- 派遣労働者に係る雇用制限の禁止
- 就業条件等の明示
- 労働者派遣に関する料金の額の明示
- 派遣先への通知
- 労働者派遣期間の制限の適切な運用
- 日雇労働者についての労働者派遣の禁止
- 離職した労働者についての労働者派遣の禁止
- 派遣元責任者の選任
- 派遣元管理台帳
- 労働・社会保険の適用の促進
- 派遣労働者を特定することを目的とする行為に対する協力の禁止等
- 性・障害の有無・年齢による差別的な取扱いの禁止等
- 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針 等
他に重要なものとして、労働者派遣契約に関するルールがあります。詳しくは派遣契約に関する基礎知識(トラブルを未然に防止するための契約書作成のポイント)をご覧ください。
他にも、次のような重要事項もありますのでご注意ください。
- 偽装請負の問題
- 二重派遣の問題
- 適用除外(派遣禁止)業務の問題
- 関係派遣先に対する労働者派遣の制限等の問題
- 個人情報の取り扱いの問題
2.2 派遣労働者に対する雇用管理責任
派遣元は派遣労働者の雇用主としての義務を負います。
たとえば、有給休暇の取得に関する対応は、派遣先との調整が必要な点がやや特殊ではあるものの、基本的な部分は通常の自社社員と同様です。
派遣労働者を雇用するうえで特有の注意点もあります。
たとえば、登録型などの場合、派遣労働者の労働条件が通常の自社社員のものと異なる場合が多いと思います。その場合、就業規則を分けて作成することが必要です。
派遣先との派遣契約の関係で、通常の自社社員の場合よりも、休業手当の支払や有期雇用契約の更新に伴う問題も発生しやすい傾向があります。注意が必要です。
2.3 派遣先での労働災害と安全配慮義務
派遣労働者が派遣先で労働災害(業務災害)に被災した場合には、派遣元と派遣先の双方が労働基準監督署に死傷病報告書を提出することになります。
派遣労働者は、派遣元が加入する労災保険の適用を受けますので、労災の申請に当たり、派遣元から派遣先へ事故状況等の確認が必要です。
派遣先での労働災害(業務災害)の場合、まずは派遣先の安全配慮義務が問題になることが多いです。なぜなら、派遣労働者は多くの場合、派遣先の会社でその指示に基づき業務をしているからです。
もっとも、派遣先での事故だからといって派遣元が当然に責任を負わないことにもなりません。
派遣元独自の落ち度があるケースでは、派遣元の責任が生じる可能性があります。いずれにせよ、派遣先での事故は、派遣元と派遣先で協力してトラブル対応を行わなければなりません。
3. 派遣先で発生しやすい問題と派遣元の対応
3.1 派遣先従業員から派遣労働者へのハラスメント
派遣労働者から派遣先従業員によるハラスメント被害の申告がされることがあります。
派遣元は、雇用主としてハラスメント防止措置義務を負いますが、派遣法上は派遣先も同じ義務を負います。
ハラスメント被害の申告に対する事実確認が重要ですが、派遣元は派遣先で起きた出来事を派遣先の協力なく調査することができません。
そのため、派遣元と派遣先で連携して対応する必要があります。
派遣先との関係性を重視するあまり、派遣元が十分なハラスメント調査・対応を行わないことは避けるべきです。
派遣元と派遣労働者間での労使紛争にもなりかねず、結局は派遣先も巻き込んだ大きなトラブルになるおそれもあります。
3.2 派遣先での派遣労働者の問題行動
派遣労働者が派遣先で問題行動を起こす場合があります。たとえば、派遣先でのハラスメント、犯罪行為や情報漏えいなどです。
まずはハラスメント被害申告の場合と同様、派遣先と連携して調査する必要があります。
調査の結果、実際に問題行動が認められた場合には、派遣先やその従業員との間での責任問題や派遣労働者の処遇をそれぞれ検討しなければなりません。
派遣先から損害賠償を求められることもありますが、派遣契約の内容やトラブルに至ったことへの両社の責任割合を踏まえてまずは協議することになります。
派遣契約上、責任についてどのような定めが置かれているのかが重要です。
問題行動を起こす派遣労働者への対応も要注意
派遣労働者の処遇は、雇用契約書、就業規則や問題行動の内容などを踏まえて、懲戒処分や解雇、雇止めなどを検討することになります。
いわゆる登録型など、短期の有期契約を繰り返す派遣労働者の場合、継続雇用の期待が薄く、自社の通常の社員よりも関係が悪化しやすい傾向がありますので、より注意が必要です。
3.3 契約期間中の交代要請
派遣労働者の能力不足など、派遣先が派遣労働者に何かしら問題があると考えたときに派遣労働者の交代を要請してくることがあります。
派遣労働者の交代には、交代要員の確保や、休業手当の支払いなど、想定外の労力、コストがかかります。
派遣労働者の交代について契約上定めがあることが多いため、まずは契約内容の確認が必要です。
派遣先側の交替理由も詳細を確認してください。たとえば、派遣労働者の問題行動が理由であれば、前提として事実調査が必要です。
調査の結果、派遣労働者側の問題が明らかであれば、派遣先と派遣元との間で見解の相違も生じにくく、スムーズに話が進みやすいでしょう。
派遣労働者側の問題の有無がはっきりしない場合は、派遣労働者側も自身に非がないと考えていることが多いです。
対応を誤ると、派遣先だけではなく、派遣労働者側ともトラブルになることがありますので注意が必要です。
4. 派遣元が負うリスクとその回避方法
4.1 法令違反に伴う行政指導などのリスク
人材派遣のルールに関する理解が十分でない場合、知らずに法令違反をしていることがあります。
法令違反があった場合、監督官庁の定期指導や、派遣労働者からの申告により発覚することがあります。
重大な違反ではなくとも事業への影響が軽微とは言い切れません。
たとえば、監督官庁から是正を求められた事項に対応しようとすると、従来の運用が大幅に変わる状況をイメージしてください。
システムの改修や、派遣先や派遣労働者への説明など、膨大なコストや労力がかかる場合があります。
また法令違反を理由とする是正ですので、信用上も問題になります。
人材派遣に関わる法令について正確な知識を取得し、日ごろから適切な運用をすることが重要です。
4.2 派遣労働者からの訴訟リスクへの備え
派遣労働者との関係がこじれた場合、労働組合への加入による団体交渉や、弁護士の代理交渉、訴訟等に至る可能性があります。
派遣労働者との紛争が起きれば、自社イメージの低下にもつながりかねません。労務管理が適切に行われていること、紛争の火種の段階から大きく対応を誤らないことが重要です。
4.3 社会的信用の低下を防ぐための対応策
人手不足の昨今では、十分な人数の派遣労働者を集めることが難しくなってきています。
そして、人材サービス企業で労使紛争が生じることは、そのまま雇用を扱う自社サービスそのものへのイメージ悪化につながります。
ひとたび紛争が発生してしまえば、完全にコントロールすることはできません。口コミサイトへの書き込みやインターネット上で掲載がされる可能性もあります。
まずは適切な労務管理と初動対応で紛争を発生させない、発生しても大きくさせないことが重要です。
また紛争が大きくなった場合でも、専門家に相談し、できる限り早期かつ円満に解決することが重要になってきます。
5. まとめ:派遣先企業とのトラブル対応・未然防止のための対応はよつば総合法律事務所へ
派遣先企業とのトラブル対応は、第三者である派遣労働者とのトラブルを誘発しかねないため、難易度が高いです。
また人材派遣では、派遣労働者とのトラブルがサービスイメージに直結するため、通常の企業よりも一層注意が必要です。
事前の予防策の検討やトラブル発生時の初期段階で弁護士に相談をすることで、安心安全に業務を行うことができます。結果的に企業イメージの維持、社内リソースの節約にもなります。
よつば総合法律事務所には、人材サービス会社の法務部での業務経験がある弁護士が在籍しています。多くの人材サービス会社の法律問題もお取り扱いしています。
派遣企業とのトラブルに関して悩んだときは、まずはよつば総合法律事務所にお問い合わせ下さい。
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