人材紹介事業における返金トラブル|返金額の相場や返金規定作成時のポイント

自身で返金制度の制度設計をする際、「これで本当に良いのだろうか」という不安はありませんか?

求人企業との返金トラブルになった際、契約内容を法律に照らしてどう判断してよいのかわからなかったり、求人企業側への具体的な返答に困ったりするケースはありませんか?

人材紹介業では、早期の離職が生じて返金トラブルになることがあります。そのため、適切な返金制度の検討が必要です。

また、実際に返金トラブルが発生した場合、法的な判断をしながら求人企業と対応するのは容易でありません。だからといって顧客の筋が通らない要求を受け入れてしまっては、健全な事業運営ができません。

この記事では、人材紹介事業における返金トラブルの実情と対策について、人材サービス会社の法務部での勤務経験がある弁護士が解説します。

人材紹介事業における返金トラブルについてお悩みがある場合、まずは詳しい弁護士への相談をおすすめします。

1. 紹介手数料の返金トラブルはありませんか?

「成約した労働者が早期に離職してしまった」

「求人企業から想定よりも労働者の能力が低いことを理由に手数料の返金を求められた」

「当社と求人企業との間で返金の要否についてトラブルになっている」

紹介した求職者が求人企業に採用されたものの、入社後に求人企業との間で労使紛争になったり、早期に離職したりすることがあります。

その際に不満を持った求人企業との間で、紹介手数料の返金トラブルになることがあります。

  

2. 紹介手数料の返戻金制度とは?

職業紹介事業者と求人者との人材紹介契約では、返金規定があることが多いです。

たとえば、次のような規定です。

(手数料の返還)

1. 採用された人材が入社日から〇か月以内に、人材紹介会社の責めに帰すべき事由により退職した場合、人材紹介会社は、求人者に対し、以下の各号に定めるとおり、人材紹介手数料を返還する。
入社後1か月以内 :人材紹介手数料の〇%相当額
入社後1か月超から3か月以内 :人材紹介手数料の〇%相当額
入社後3か月超から6か月以内 :人材紹介手数料の〇%相当額

このような制度を返戻金制度と呼びます。

返戻金制度は法令上の義務ではなく、定めるかどうかは人材紹介会社の自由です。

もっとも、厚生労働省の業務運営要領では定めることが望ましいとされており、求人企業も希望するため、制度を設けている人材紹介会社が多いです。

返戻金制度を定めるときに必要な対応

返戻金制度を定めるときは、手数料(人材紹介料)の定めと同様、次の各事項の対応が必要です。

  • 求人・求職の申込受理時の明示(取扱職種の範囲等の明示)
  • 帳簿への記載(無期雇用就職者の離職状況に関する事項)
  • 職業紹介事業報告
  • 人材サービス総合サイトの掲載
  • 手数料表、返戻金制度に関する事項を記載した書面等の情報提供など

なお、2024年4月1日施行の改正職業安定法施行規則により、従来の事業所内での掲示に代えて、自社ホームページなどで情報提供ができるようになりました。

たとえば、次のような対応方法です。

  • 自社ホームページのわかりやすい場所に掲載しておく。
  • 自社ホームページを利用したサービス利用の案内において、利用規約等の確認を求めるタイミングと合わせて提供する。

  

3. 返戻金制度の適用が問題になった裁判例

返戻金制度の適用が実際に問題になった裁判例をご紹介します。(東京地方裁判所平成24年2月23日判決)

事案の概要

人材紹介会社が求人企業に対して、人材紹介契約に基づき、紹介手数料の支払を求めた事案です。

人材紹介会社が紹介した労働者が入社後、迷惑防止条例違反容疑で現行犯逮捕された前歴があることが発覚しました。

その後、求人企業が退職勧奨して労働者が自主退職に至ったため、就労開始日から1か月以内に自己都合により退職した場合に適用される返金規定の適用の有無が争点となりました。

また、人材紹介会社の調査が不十分であったかも問題になりました。

裁判所の結論

退職勧奨による自主退職であったことを理由に返金規定の適用を認めました。 また、裁判所は、本件において人材紹介会社が求職者の身上関係を調査すべき義務があるとはいえないと判断しました。 理由は次のとおりです。

  • 人材紹介契約上、人材紹介会社が応募者の前歴等の調査、報告、提出書類等への記載をする明確な義務の記載はない。
  • 職業安定法上の「あっせん」の定義や指針上の求職者の個人情報の取得の制限を踏まえると、職業安定法上も上記義務があるとはいえない。

4. 紹介手数料の返金トラブル防止の対策

紹介手数料の返金トラブルを防止するためには次の点が重要です。

① 契約書で返戻金制度を明確に定めること ② 人材紹介会社が経歴等の調査義務を負わず、その内容を保証しない旨を明確にすること

① 契約書で返戻金制度について明確に定めること

返戻金制度を定めるポイントは次のとおりです。

  • 保証期間と返金割合
  • 返金の対象となる事由
  • フリーリプレイスメントを可能とするかどうか

保証期間と返金の割合

保証期間と返金の割合は、退職までの期間に応じて返還する紹介手数料の割合を決める例が多いです。たとえば、次のような規定です。

(手数料の返還)

1. 採用された人材が入社日から〇か月以内に、人材紹介会社の責めに帰すべき事由により退職した場合、人材紹介会社は、求人者に対し、以下の各号に定めるとおり、人材紹介手数料を返還する。
入社後1か月以内 :人材紹介手数料の〇%相当額
入社後1か月超から3か月以内 :人材紹介手数料の〇%相当額
入社後3か月超から6か月以内 :人材紹介手数料の〇%相当額

保証期間と返金の割合の部分は求人企業も気になる部分です。同業他社と比較検討の対象になる可能性があります。そのため、自社の収益や他社との競争力を踏まえて定める必要があります。

返還額の相場観は、インターネットでも様々な情報が飛び交っているものの、公的な統計資料ではありません。

厚生労働省の人材サービス総合サイトには、各社の紹介手数料の割合と返戻金制度の内容が載っています。厚生労働省の人材サービス総合サイトを参考にするのがおすすめです。

返金の対象となる事由

返金の対象となる事由は、人材紹介会社と求人企業のパワーバランスで決まることが多いです。

なぜなら、両社の思惑は次のとおりだからです。

人材紹介会社の思惑

・退職の理由について自社に何ら落ち度がない場合、一切返金したくない。

求人企業の思惑

・採用ができても早期離職では意味がない。退職の理由にかかわらず、早期の離職に至った場合は返金して欲しい。

両社の利害が大きくぶつかるのが、特に次のようなケースです。
  1. 労働者の自己都合による退職の場合
  2. 労働者側独自の落ち度がある場合(重大な経歴詐称、非違行為等)

この場合、人材紹介会社は、自社に落ち度がないため返金を認めたくありません。他方で、求人企業は、自己都合退職などの退職の場合こそ返金を求めたいはずです。

契約上の定めが不明確だと、互いの利害が衝突します。その場合、多くの事案で交渉のパワーが強い求人企業の要望に応じざるを得なくなります。

そのため、人材紹介会社は、返金を認める場合をあらかじめ検討し、自社の契約書ひな型で明確に定めなければなりません。

求人企業が契約書をしっかり読まないこともあります。契約書のひな型作成で悩むようであれば、人材紹介会社に落ち度がない限り返金を認めないことを明確に定めるべきです。 なお、自己都合退職での返金を認める規定の場合、求人企業の落ち度による自己都合退職等では返金しないということを具体的な例示と共に定めることが望ましいです。

フリーリプレイスメントを可能とするかどうか

フリーリプレイスメントについて法律上明確な定義はありませんが、交替の人員を無償で探すことで返金を免れる制度のことを指すのが通常です。契約書でたまに見かけることがあります。

人材プールが豊富で交代要員を探すことが容易であれば、採用を検討してもよいと思います。

② 人材紹介会社が経歴等の調査義務を負わず、保証をしないことを明確にすること

人材紹介会社の調査義務の範囲や責任を明示することも返金トラブルを防ぐために重要です。返金制度の適用が当事者間で問題になるケースでは、人材紹介会社の調査義務も問題となることが多いからです。

先ほどご紹介した東京地方裁判所平成24年2月23日判決では、契約上も法律上も人材紹介会社に調査義務はないと判断しています。

しかし、裁判所は、契約書の内容も確認したうえで判断をしています。 契約書に調査義務があると誤解されそうな定めや、求職者の情報の正確性を保証する定めがあれば、人材紹介会社が特別に責任を負っているとの判断に至るリスクがありますので要注意です。

求人企業の誤解から発生するトラブルに注意

人材紹介企業の基本的なスタンスは、「求人企業に自らの責任と判断で労働者を採用するか否か決めていただく」というスタンスです。

そのため、次のような点を契約書などで明示しておくとよいでしょう。

  • 人材紹介会社が求職者の提出書類(履歴書、職務経歴書)の正確性を保証するものではないこと
  • 人材紹介会社が求人企業の希望との適合性を調査したり保証したりするものではないこと
  • 求人企業の責任と判断で採用を行うものであること

求人企業の誤解から生ずるトラブルに注意しましょう。

社員への教育や研修も必要

人材紹介会社の義務の範囲を契約書などで明確にすることはもちろん大切です。

また、実際の求人企業とのやりとりでも、リクルーティングアドバイザーが求人企業に対して、誤解を招くようなやりとりをしないことも重要です。 特に、求人企業が不相当な義務を負ったり、過大な保証をしていると誤解させるやりとりをしないことが大切です。

そのためには、社員への継続的な教育や研修も必要です。

5. まとめ:紹介手数料の返金トラブルはよつば総合法律事務所へ

返戻金の規定の作成、求人企業との返金トラブルは専門的な判断が必要です。

対応を弁護士に相談・依頼することで、安心安全に業務を行うことができ、社内リソースの節約にもなります。

よつば総合法律事務所には、人材サービス会社の法務部での業務経験がある弁護士が在籍しています。多くの人材サービス会社の法律問題もお取り扱いしています。

返金トラブルの問題で悩んだときは、まずはよつば総合法律事務所にお問い合わせ下さい。

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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。