人材紹介手数料の支払いがなく採用に?!中抜きにおける裁判例と防止に向けた対策

中抜き行為を防止するには、適切な契約書の作成と社内運用が必要です。また、紛争が発生しそうになったら専門家と対策を立てましょう。

この記事では、中抜き行為による手数料未払い防止のための対策について、人材サービス会社の法務部での勤務経験がある弁護士が解説します。

中抜き行為を放置すると事業に悪影響を与えます。気になることがある場合、まずは詳しい弁護士への相談をおすすめします。

目次

 

1. 自社を介さず求人者と求職者が直接契約をしていた?

  • 「絶対に成約すると思っていた案件が突然理由もわからず契約不成立になった」
  • 「たくさん求職者を紹介しており、成約に至るはずなのに、あの会社だけ極端に成約率が低い」
  • 「自社を介さずに、求人企業が求職者と直接契約をしているという噂を聞いた」

紹介した求職者について、求人企業からの不採用との連絡や、求職者からの辞退の連絡を受けていたものの、実際は自社を介さずに直接雇用契約をしていたというケースがあります。

事案によっては、紹介手数料の支払いを免れる目的がある悪質なケースもあります。


  

2. 中抜き行為(直接取引)とは?

人材紹介をしていると、紹介した求職者について、求人企業から不採用との連絡や、求職者からの辞退の連絡を受けていたものの、実際は自社を介さず直接雇用契約をしていたというケースがあります。

このような問題を、中抜き直接取引と呼びます。

人材紹介業では、内定や入社を条件に紹介手数料が発生するケースが多いため、中抜き行為が行われると事業に極めて重大な影響を及ぼします。

  

3.中抜き行為の裁判例の解説

では、中抜き行為でトラブルになったとき、裁判所はどのような判断をするのでしょうか?

職業紹介事業者の請求が認められた3つの裁判例をご紹介します。(事実関係や裁判所の判断内容は簡略化していますので、予めご了承ください。)
  

裁判例①:令和4年6月14日東京地方裁判所判決

事案の概要

職業紹介事業者が医療法人に対して医師である候補者を紹介しましたが、採用に至りませんでした。

その後、候補者が同じ医療法人に自ら申し込んで医療法人が直接採用するに至ったため、職業紹介事業者が医療法人に紹介手数料を請求した事案です。

紹介当時は、次の事情などから条件交渉が難航し、採用に至らなかった経緯があります。

  • 候補者が求人企業の想定よりも高齢であった。
  • 条件が求職者の想定より低かった。
  • 求人者が多忙で連絡がつきづらかった。
  • 職業紹介事業者が求人者への入職を積極的に勧めなかった。

契約内容

職業紹介事業者と医療法人との契約では、次のような定めがありました。

  • 医療法人は、職業紹介事業者に対して申込書を発行することなく、職業紹介事業者が紹介した求職者を採用してはならない。
  • 医療法人が申込書を提出せずに求職者を採用した場合は、職業紹介事業者に対して紹介手数料を支払う。

結論

職業紹介事業者の請求が認められています。

医療法人側は、主に以下の反論をしましたが、いずれも裁判所は認めていません。

  1. 紹介手数料のパーセンテージは都度決定するという契約であり、本件では決定されていない。
  2. 職業紹介事業者は、候補者と医療法人との間の契約締結交渉を断念させており、債務不履行がある。債務不履行により契約は解除されたため、紹介手数料の支払義務がない。
  3. 職業紹介事業者が契約締結交渉を断念させたにもかかわらず、契約成立を根拠に紹介手数料を請求するのは権利濫用である。

裁判例②:令和4年4月19日東京地方裁判所判決

事案の概要

求人企業が職業紹介事業者に連絡することなく求職者と直接連絡を取って採用したことが契約違反であるとして、職業紹介事業者が紹介手数料及び違約金を請求した事案です。

契約内容

職業紹介事業者と求人企業との契約では、次のような定めがありました。

  • 求職者の紹介日から12か月は、選考終了後であっても、求人企業から求職者に直接連絡を取る場合には、事前に職業紹介事業者に通知しなければならない。
  • 上記義務に違反して求職者を採用したにもかかわらず、紹介手数料の支払いがない場合、求人企業は、紹介手数料に加えて紹介手数料の2倍の違約金を支払う。

結論

職業紹介事業者の請求が認められています。

求人企業側は、主に以下の反論をしましたが、いずれも裁判所は認めていません。

  1. 求職者から自発的に連絡があったものであり、契約違反ではない。
  2. 契約では求職者が入社した日から3か月以内に本人の責めを理由とする解雇により退職した場合には、紹介手数料を50パーセント返還する旨の定めがある。本件でも求職者は3か月以内に退職に至っていることから、違約金が減額されるべきである。
  3. 契約は錯誤無効である。求人企業は申込書で契約が成立すると思っていなかった。
  4. 求職者は3か月以内で能力不足解雇となったことから、紹介手数料の返金義務が発生する。そのため、同返金請求権と紹介手数料の請求権を相殺する。

裁判例③:令和3年3月17日東京地方裁判所判決

事案の概要

職業紹介事業者が求人企業である医療法人に対して求職者である助産師を紹介したところ、医療法人が職業紹介事業者に連絡することなく求職者と直接連絡を取って採用したことが契約違反であるとして、違約金を請求した事案です。

契約内容

職業紹介事業者と医療法人との契約では、次のような定めがありました。

  • 職業紹介事業者の書面による承諾なくして、求職者との間で雇用について直接交渉をしてはならない。
  • 求職者を紹介してから1年以内は、当該紹介に係る雇用の成否にかかわらず、職業紹介事業者の書面による承諾なくして、求人企業(関係会社や関連施設含む。)で雇用してはならない。
  • 医療法人がこれらの義務に違反した場合は違約金(12か月継続勤務したと仮定した前提での違約金)を支払う。

結論

職業紹介事業者の請求が認められています。

医療法人側は、主に以下の反論をしましたが、いずれも裁判所は認めていません。

  1. 医療法人は上記義務に違反していない(直接交渉していない)。
  2. 違約金が高額に過ぎ、かつ適用範囲が広すぎるため公序良俗違反で無効である。

なお、医療法人側が求職者に対し、次のような発言をしたと認定しています。

  • 職業紹介事業者を通すとお金がかかるので、一旦職業紹介事業者には求職者が夜勤できないことを理由に採用が厳しいと伝える。
  • その後に医療法人側から求職者に直接電話をするので、その際に今後のことを伝えたい。

また、求職者は、医療法人側の発言に不信感を持ち、職業紹介事業者に報告したようです。

4. 中抜き行為による手数料未払い防止のための対策

裁判例からは、中抜き行為による紹介手数料の未払いを防止するための対策として、次のポイントが見えてきます。

  • 契約書で中抜き行為の禁止を明確に定め、求人企業側から不当な反論がされないように手当すること
  • 契約内容を事前に求人企業、候補者側に十分に説明して理解してもらうこと
  • 求人企業側から意図せぬ反論をされないよう、適切な人材紹介を心がけること

① 契約書で中抜き行為の禁止を明確に定めること

裁判例は、いずれも契約の定めを根拠に紹介手数料の請求を認めています。そのため、契約書に中抜き行為の禁止を明確に定めることが何より重要です。

また、必要に応じて違約金を設定してください。実際の違約金は、過去の裁判例も踏まえて適切な水準を決めるのがよいでしょう。

② 契約内容を事前に求人企業、候補者側に説明すること

契約内容を事前に求人企業、候補者側に説明することも重要です。

一部の悪質な求人企業は別かもしれませんが、契約内容を事前に十分に説明することで一定の抑止効果はあります。

また、候補者側からの情報提供があるケースもありますので、求人企業だけではなく、候補者側にも中抜き行為が禁止であることを十分理解してもらいましょう。

③ 適切な人材紹介を心がけること

裁判になれば、人材紹介契約書の内容だけではなく、実際の人材紹介サービス提供の不備を理由に求人企業側から反論がされます。

求人企業側の主張が到底認められない場合もありますが、無用な争点を増やさぬよう、人材紹介サービス提供自体も適切にする必要があります。

5. まとめ:中抜き行為の法的問題はよつば総合法律事務所へ

中抜き行為についての契約書チェックや実際の紛争対応を弁護士に依頼することで、安心安全に業務を行うことができ、社内リソースの節約にもなります。

よつば総合法律事務所には、人材サービス会社の法務部での業務経験がある弁護士が在籍しています。多くの人材サービス会社の法律問題もお取り扱いしています。

中抜き行為の問題で悩んだときは、まずはよつば総合法律事務所にお問い合わせ下さい。

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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。