有料職業紹介事業とお祝い金規制

職業紹介事業者が転職者に支給する、いわゆる「お祝い金」について今後規制が強化される可能性があります。

本記事では、「お祝い金」に関する規制の概要と直近の指導事例を踏まえた注意点について、人材サービスに詳しい弁護士が解説します。

目次

1. お祝い金規制とは?

職業紹介事業者が転職者に支給するいわゆる「お祝い金」について、2024年5月、厚生労働省が規制を強化する方向で検討を始めたという報道を目にしました。

そこで、私も厚生労働省の労働政策審議会(いわゆる「労政審」)職業安定分科会の議事録を確認してみました。

その中では、直近の医療等3分野の集中指導監督の実施状況(厚生労働省)の報告があり、その中で「お祝い金」を含む違反への指導事例が言及されていました。

また募集情報等提供事業にも「お祝い金」などの規制を拡大すべきではないかといった意見の記載もありました。

上記報告では、以下の指導事例が記載されています。

お祝い金に関する指導事例(25件)

  • 面接実施時に電子ギフトカード(数千円)を支給
  • 知人を紹介した人、紹介されて求職登録した人それぞれに対して旅行券(数万円)や電子ギフトカード(数千円)を支給
  • 資格取得費用又は研修講座受講費用(数万円程度)のキャッシュバックを実施
  • 紹介により就職し一定期間後にアンケート回答した場合に支給(数万円程度)
  • 求職登録し就職した者を対象とした無料宿泊券の支給

2. 禁止される「お祝い金」とは?

職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(厚生労働省)には以下の記載があります。(強調部分は筆者による。)

求職の申込みの勧奨については、求職者が希望する地域においてその能力に適合する職業に就くことができるよう、職業紹介事業の質を向上させ、これを訴求することによって行うべきものであり、職業紹介事業者が求職者に金銭等を提供することによって行うことは好ましくなく、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭等を提供することによって行ってはならないこと。
(第六「職業紹介事業者の責務等に関する事項(法第三十三条の五)」の九「適正な宣伝広告等に関する事項」(三)参照)

これがいわゆる「お祝い金」に関する規制です。

また、上記指針の改正時の厚生労働省リーフレットには以下の記載があります。

職業紹介事業者が、自ら紹介した就職者に対し転職したらお祝い金を提供するなどと持ちかけて転職を勧奨し、繰り返し手数料収入を得ようとする事例があります。

このような行為は、労働市場における需給調整機能を歪め、労働者の雇用の安定を阻害する行為であり、行ってはいけません。

元々は、転職を勧奨し、繰り返し手数料収入を得ようとする事業者の事例が問題となって改正がなされたようです。

3.直近の指導事例を踏まえた注意点① 求職の申込みの勧奨とは?

上記指針によれば、求職の申込みの勧奨について、職業紹介事業者がお祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる限度を超えて金銭等を提供する行為が禁止されます。

求職の申し込みとは?

求職とは、対価を得るために自己の労働力を提供して職業に就こうとすることをいいます。

そのため、その申し込みを職業紹介事業者に対して行うことを求職の申し込みとしていると考えられます。

面接や求職登録への勧奨も指導対象

「お祝い金」という名称からすると、就職(内定)に際して支払われるイメージを持ちます。

しかし、上記指導事例をみると、(具体的な事情までは分かりませんが)求職登録し就職した場合だけではなく、面接やその前段階である求職登録への勧奨も含んで指導がなされています。

紹介により就職し一定期間後にアンケート回答した場合も指導対象

紹介により就職し一定期間後にアンケート回答した場合への支給も求職の申し込みの勧奨と判断されています。

報告内容だけ見ても、具体的にどのような支給条件であり、どのような広告がなされていたのかといった事情は分かりません。

しかし、上記事例からすると、少なくとも労働局が「(純粋な)アンケートへの対価である(求職の申込みの勧奨のためのものではない)。」と判断をしていないことがわかります。

4. 直近の指導事例を踏まえた注意点② お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる限度を超えて金銭等を提供する行為とは?

お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる限度を超えて金銭等を提供する行為について、その具体的な判断基準は必ずしも明らかではないものの、一般的には交通費実費程度であれば問題がないとされているようです。

上記指導事例では「電子ギフトカード(数千円)」「旅行券(数万円)や電子ギフトカード(数千円)」「資格取得費用又は研修講座受講費用(数万円程度)のキャッシュバック」「無料宿泊券の支給」が含まれています。

したがって、以下の点に注意が必要です。

  • 金額が「数千円」であっても社会通念上相当と認められないケースがあること
  • 現金支給に限られないこと(指針の「金銭等」との文言参照)

5. 募集情報等提供事業への拡大の可能性

上記「医療等3分野の集中指導監督の実施状況」6頁によれば、現行ルールでは禁止対象となっていない募集情報等提供事業でも、お祝い金に関する情報提供があったと記載されています。

そのような実態もあり、既に述べたとおり、労政審で募集情報等提供事業への規制の拡大の議論がなされているものと考えられます。

6. さいごに:お祝い金の支給に関連する問題は弁護士に相談

必ずしも判断基準が明確とはいえないため、実際の事業運営では判断に悩む場合も多いのではないでしょうか?

今後法律で明確に禁止となれば、ガイドラインやQ&Aなどで行政の判断基準が明確になる可能性が高いです。

また、既に述べたとおり、これまで規制の対象外であった募集情報等提供事業等にも規制が拡大していく可能性があります。

「現在求職者に支給している金銭が指針に反していないのか?」など、お祝い金の支給に関連する問題についてお悩みがある場合はお気軽にご相談ください。

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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。