例年どおり、東京労働局の令和7年度指導監督状況が公表されました。公表内容によれば、昨年度は、延べ4506事業所に指導監督が実施され、3事業主に対して行政処分がなされたとのことです。
ご存じのとおり、労働者派遣事業や有料職業紹介事業などの人材サービス事業では、労働局による指導監督が行われます。行政から重大な違反を指摘されたり、行政からの指導に対して適切な是正対応ができなかったりすると、最悪の場合、事業継続そのものに影響を及ぼしかねない大きな問題に発展するリスクがあります。
この記事では、主に人材サービス業の皆様向けに、昨年度の労働局の指導監督状況の概要とそれを踏まえた行政対応の基礎知識について、人材サービス会社の法務部での勤務経験がある弁護士が解説します。
行政対応についてお悩みがある場合、まずは詳しい弁護士への相談をおすすめします。

1. 令和7年度東京労働局指導監督状況の概要
東京労働局では、毎年、指導監督状況が公表されており、同様に愛知労働局や大阪労働局でも公表されています。
これらの公表資料は、行政の最新の指導監督状況や指摘されやすい事項がわかる有益な資料です。毎年チェックし、その都度自社の業務を見直すことをお勧めします。
1.1 行政処分について
労働者派遣で、3件の行政処分が行われています。公表によれば、その概要は以下のとおりです。
| 事業区分 | 処分理由 | 処分内容 | 処分日 | |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 派遣元事業主 | 法定の除外理由なく労働者供給事業を行った。 | 〇業務改善命令 | 令和7年5月21日 |
| 2 | 派遣元事業主 | 法定の除外理由なく労働者供給事業を行った。 | 〇事業停止命令 〇業務改善命令 | 令和7年6月2日 |
| 3 | 派遣元事業主 | 法定の除外理由なく適用除外業務での労働者派遣を行った。 | 〇事業停止命令 〇業務改善命令 | 令和7年7月30日 |
重大な法令違反に対しては、いずれも重い処分がなされています。
1.2 行政指導について
公表によれば、令和7年度は、4506事業所に指導監督が実施され、合計で4210件の文書による是正指導が行われています。
1.2.1 指導監督実施件数
公表によれば、事業類型ごとの指導監督実施件数の内訳は、以下のとおりです。
- ①労働者派遣事業:3,223事業所
- ②請負事業:111 事業所
- ③職業紹介事業:954 事業所
- ④その他:218 事業所(うち募集情報等提供事業 200 事業所)
指導監督を受けている事業者数でいうと、労働者派遣事業が圧倒的に多く、次いで多いのが職業紹介事業です。「請負事業」に対しても指導監督が実施されています。おそらく偽装請負や多重派遣などの問題が多いものと推測されます。
前年度と比べると「その他」が37事業所から218事業所と大幅に増えています。これは募集情報等提供事業に関する調査が 26 事業所から200事業所へと大幅に増加したことに起因しているようです。募集情報等提供事業を行っている企業の方は、今後注意が必要です。
1.2.2 是正指導件数
公表によれば、各事業類型の是正指導件数の内訳は、以下のとおりです。
- ①労働者派遣事業:3,034 件
- ②請負事業:40 件
- ③職業紹介事業:1,073 件
- ④その他:63 件(うち募集情報等提供事業 37 件)
実施件数と比較すると、大半の事業所で何らかの是正指導がなされていることがわかります。
1.2.3 主な指導内容
公表によれば、主な指導内容は以下のとおりです。事業類型ごとに整理されており、労働者派遣事業に関しては、派遣元と派遣先で分けられています。
労働者派遣事業の場合、派遣先にも指導監督が入ります。派遣先は派遣元(派遣会社)にとっては顧客ですので、自社の対応の不備で派遣先に指導が入ることになれば、ビジネスに重大な影響が生じかねません。
(1) 労働者派遣事業に関するもの
① 派遣元事業主に対する指導内容
【労使協定の締結(労働者派遣法30条の4第1項 )】
- 労使協定の内容に不備がある。
【就業条件の明示(労働者派遣法34条1項 )】
- 就業条件の明示がなされていない、あるいは明示の内容に不備がある。
【派遣元管理台帳(労働者派遣法37条1項 )】
- 派遣元管理台帳の記載内容に不備がある。
【マージン率等の情報提供(労働者派遣法23条5項 )】
- 関係者に対しマージン率等の情報提供が適切に行われていない。
【比較対象労働者の情報提供がない場合の派遣契約締結の禁止(労働者派遣法26条9項 )】
- 派遣先から比較対象労働者の待遇等に関する情報提供がないまま派遣契約を締結した。
② 派遣先に対する指導内容
【派遣先管理台帳(労働者派遣法42条1項 )】
- 派遣先管理台帳の記載内容に不備がある。
【労働者派遣契約(労働者派遣法26条1項 )】
- 労働者派遣契約を適正に締結していない。
【比較対象労働者の待遇等に関する情報提供(労働者派遣法26条7項 )】
- 派遣元事業主へ情報提供していない。
(2) 請負業者、発注者に対する指導内容
【労働者供給事業の禁止(職業安定法44条 )】
- 請負契約と称して、実態は労働者を供給し、又は受け入れている。
【就業条件の明示(労働者派遣法34条1項等 )】
- 就業条件の明示がなされていない。
(3) 職業紹介事業者に対する指導内容
【職業紹介事業の事業実績等の情報提供(職業安定法32条の16第3項 )】
- 就職者等の事業実績と手数料・返戻金に関する情報をインターネットの利用により適正に提供していない。
【帳簿書類の備付け(職業安定法32条の15 )】
- 求人求職管理簿が作成されていない、あるいは記載に不備がある。
【労働条件の明示(職業安定法5条の3第1項 )】
- 求職者に対して業務の内容、労働契約の期間などを適切に明示していない。
昨年度の指導監督状況は上記のとおりです。皆様が思っているよりも多くの指導監督が実施され、是正指導が出ているという印象を持たれたのではないでしょうか。
このように、人材サービス会社にとって行政による指導監督は非常に身近で注意すべきものです。日頃からその点を意識して業務をしていく必要があります。
1.3 指導監督方針
上記各労働局では、毎年指導監督の方針も公表しています。公表によれば、東京労働局に関する方針のポイントは以下のとおりです。
令和8年度の指導監督方針のポイント
- 同一労働同一賃金など派遣労働者の公正な待遇の確保に向けて、労働者派遣事業の運営が適正に行われるよう、法制度の周知徹底や指導監督を実施。
- いわゆる偽装請負や、多重派遣を行う事業者に対しては、行政処分を含む厳正な指導監督を実施。
- 職業紹介事業者及び募集情報等提供事業者に対し、令和 7 年 4 月に改正施行された職業安定法施行規則及び指針を中心に、適正な業務運営がなされるよう指導監督を実施。また、いわゆる「スポットワーク求人」を扱う職業紹介事業者及び募集情報等提供事業者に対し関係部署と連携した指導監督を実施。
- 医療・介護・保育分野における職業紹介事業の適正な運営を確保するため、特別相談窓口での相談対応を実施。また、人材サービス総合サイトを利用した情報公開、利用料金・違約金の明示等法制度の周知に努め、法違反が疑われる場合には指導監督を実施。
キーワードとして「同一労働同一賃金」「偽装請負や多重派遣」「令和7年法改正」「スポットワーク」「医療・介護・保育分野」などが出ています。
「同一労働同一賃金」の問題のように従来から是正指導が多かった分野だけではなく、「スポットワーク」など近時新たに注目されている分野も挙げられています。
これらの事項については、今後も重点的な指導監督がなされる可能性が高いため、特に注意が必要です。

2. 行政による指導監督について
2.1 指導監督のきっかけ
指導監督のきっかけとなることが多いのは、労働局による定期的な指導監督や労働者などの第三者からの情報提供です。大阪労働局の公表資料でも、以下の記載があります。
指導監督実施の端緒別件数
指導監督を行う端緒は、大阪労働局が定期的に実施する指導監督によるものが1,915 事業所、外部からの情報提供等によるものが90 事業所となっています。
労働者派遣であれば派遣労働者とのトラブル、有料職業紹介であれば求人企業や求職者とのトラブルをきっかけに労働局に情報提供がなされ、行政対応が必要な事態にまでトラブルが拡大する場合があります。
情報提供による場合は、定期的な指導監督の場合とは異なり、指導監督実施時点で既にピンポイントで違反が疑われる事項があることが多いです。現にトラブルが発生し、違反の疑いがある事項も絞られているため、より重大な問題となりやすい傾向があります。
2.2 注意点
指導監督に際しては、法令上作成および備え置きが必要な書類や記録の確認がなされるのが通常です。そのため、法令上作成や備え置きが必要な書類を正確に把握し、日々の業務で対応しておく必要があります。
違反が生じやすい事項について、調査に先立ち、自主点検表でのチェックを求められることがあります。そもそも法令上のルールを理解していないと適切な点検すらできませんので、注意が必要です。
指導監督時に具体的な説明を求められることもあります。ここでも法律上のルールを理解していないと前提を誤った回答をしてしまうおそれがあります。また、当然ですが、事実に基づいて正確に回答する必要があります。事前に提出を求められた書面を見せれば終わりではなく、実際の運用について、関連する他の資料を示しながらの説明が必要な場面もあります。
是正すべき項目がある場合、原則としては、まず一定期間内での是正対応とその報告が求められることが多いです。是正勧告を無視すると、重大な行政処分などのリスクがあります。どうしても改善に時間がかかる場合は、早期に労働局へその旨を相談することや、一旦改善できた部分だけでも中間報告をすることなどを検討する必要があります。

3. 弁護士ができるサポート内容
3.1 日頃の法令遵守、トラブル予防
弁護士は法律の専門家ですので、日頃の業務運用に関して、疑問点や懸念事項があれば相談することができます。その結果、業務運用が意図せず違法な状態となってしまうことを予防できます。
また、当事者間のトラブルは、意図せぬ指導監督のきっかけにもなるため、適切に解決することが重要です。弁護士がトラブルの初期段階から関与することで、早期かつ円満な解決につながります。
トラブルが発生した際に、相手が労働局への申告を示唆してくることもありますので、不利な状況に陥らないためにも、日頃からの法令遵守が重要です。
3.2 行政対応サポート
万が一、労働局からの調査や行政指導が行われる場合、自主点検を含む事前の準備や当日の対応において、十分な法律上のルールの知識がないまま、適切な対応をすることは困難です。
また調査終了後に是正を求められた場面でも、対応方針に悩む場合もあります。労働局へ相談することも有効ですが、立場上、全面的に事業者側に寄り添ったアドバイスをもらうことが難しい場合もあります。弁護士であれば、事業者側の立場に立って是正対応をサポートできます。
3.3 従業員向け研修講師・体制整備のサポート
日頃の適切な業務運用や、指導監督への適切な対応には、法的な知識が不可欠です。直近の法改正も重点的な指導監督の対象となりやすい部分ですので、適切なタイミングで最新の情報を把握しておくことが必要です。
弁護士が研修講師をすることで、社内でのコンプライアンス意識を高めることもできます。研修などを通じて従業員が弁護士と面識を持っておくことで、いざというときの対応もスムーズに進めやすくなります。
4. まとめ:行政対応に関するご相談はよつば総合法律事務所へ
行政による指導監督は、人材サービス会社にとって身近で重要なものです。致命的な問題が生じた場合、事業継続そのものが困難になるほどの重大な影響を及ぼす可能性もあります。
日頃の法令遵守やトラブル発生後の対応のサポートを弁護士に依頼することで、安心安全に業務を行うことができます。
よつば総合法律事務所には、人材サービス会社の法務部での業務経験がある弁護士が在籍しています。多くの人材サービス会社の法律問題も取り扱っております。
行政対応の問題で悩んだときは、まずはよつば総合法律事務所にお問い合わせください。
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